2015.5.15

「30歳になったら終わり」
という漠然とした焦りと
戦ってました/インタビュー(前編)

初単行本を2冊同時刊行した漫画家のまんしゅうきつこさん。
おひとりさま女性へのエールと生きるヒントをうかがいました。

ブログ『オリモノわんだーらんど』が一躍ネットで話題となり、先日、待望の初単行本を2冊同時刊行した漫画家のまんしゅうきつこさん。
“30歳・処女・実家暮らし”の女性の日常を描いた『ハルモヤさん』と、自身のアルコール依存症体験を綴った『アル中ワンダーランド』、そして自身のアラサー時代を振り返りながら、おひとりさま女性へのエールと生きるヒントをうかがいました。

「今日も1日寝ちゃった」という人を安心させたい

まんしゅうきつこ インタビュー SOLO

――アラサーの独身女性を描いた漫画はこれまでにも数多くありましたが、『ハルモヤさん』はその要素にプラスして、実家暮らしの気楽さと閉塞感が描かれているのが新しいですね。

まんしゅう もともとは、『男子高校生の日常』のアラサー女子版みたいなのが描きたくて。
『ゴーゴーバンチ』で連載が始まった2年前は、ちょうど世間に“アラサー女子漫画ブーム”みたいな流れがきていたんですよね。
でも、今やすっかり下火になってしまったので、“実家暮らし”を押していこうということになりました(笑)。帯のキャッチコピーも、最初の案は「こりゃたまんねえな、実家暮らし」だったんです。

――親の干渉をうっとうしいと思いながら、自立できずにぬくぬくと実家に依存している感じがリアルで、思い当たる人も多いと思います。
つらいことがあると寝てやりすごしてしまう主人公の春靄(はるもや)きの子が、「何かを頑張ろうとするとすぐ眠くなっちゃうの!」と叫ぶシーンには、超共感しました(笑)。

まんしゅう でしょ? 何かしなくちゃと思いながらも、結局今日も1日寝ちゃったよ……みたいなことって、よくあると思うんですよ。
むしろ、世の中の大半の人はそうじゃないかと思っていて。だから、そういう人が読んで「私だけじゃないんだ」と気持ちが楽になってくれたらいいな、と思いながら描いてます。

まんしゅうきつこ インタビュー SOLO 『ハルモヤさん 1』
(まんしゅうきつこ/新潮社 BUNCH COMICS)

――「わたしの人生、まだ本番が始まってないだけ」「いつまで経っても大人になりきれない、おばさんコドモ」というキャッチコピーも秀逸ですよね。

まんしゅう それは、担当編集のCさんが考えてくれたんですけどね(笑)。でも、“おばさんコドモ”っていうフレーズは、私が気に入ってよく言っていたんだっけな。
最初は『デスパレートな妻たち』のまんしゅう版にしようって話していて、8人くらいいろんな女の子が出てくる話を考えていたんですけど、最終的にはきの子だけをフィーチャーする今の形になりました。

――きの子のキャラクターは、ご自分がモデルになっていたりするんですか?

まんしゅう もちろん多少は実体験がないと描けないですけど、『ハルモヤさん』に関しては、ほぼ創作です。
まあ、第1話に出てくる「高崎線ルサンチマン(東京から高崎線に乗って埼玉に通学してくる同級生に対する“憧れ”と“都落ちした気の毒な人たち”というアンビバレンスな感情のこと)」とかには、実感もこもってますけどね(笑)。

見えない敵と戦っていたアラサー時代

まんしゅうきつこ インタビュー SOLO

――きつこさんご自身は、どんなアラサー時代を過ごされていましたか?

まんしゅう 20代後半は、ブログにも描いたことのある足フェチサイトのモデルや、キャバクラなど、とにかくいろんなバイトをしまくっていた時期。
「いつか漫画のネタにしてやる、転んでもただじゃ起きないぞ」というハングリー精神でやっていましたね
自分の奥底に眠るもやもやを、なんとか漫画として形にしなきゃ、とかき立てられる気持ちでした。なんでしょう、見えない敵と戦っていたんですかね(笑)。

――なかなかデビューできない、という焦燥感やくすぶる気持ちはあったんですか?

まんしゅう そりゃ、ありましたよ。なんか20代後半って、「30歳になったら終わり」という漠然とした焦りが出てくるんですよね。
ほら、バンドマンも30歳までに芽が出なかったら田舎に帰るとか言いがちじゃないですか。ロックスターも、30歳になる前に死んじゃったりするし。

――30歳前に結婚をされたのも、ひょっとしてそういうタイミングが関係していますか……?

まんしゅう うん、あるかもね。わたし、旦那もふくめて3人としか付き合ったことがないんですよ。
ブログにも描きましたけど、1人目が、ボコボコに殴られたり、包丁で脅されたりして、最終的にストーカーみたいになっちゃった人。2人目が、下ネタが通じないほど真面目で、別れ際にわたしが寝転がってダダをこねてドン引きされた人です。

まんしゅうきつこ インタビュー SOLO 『アル中ワンダーランド』
(まんしゅうきつこ/扶桑社)

――あらためて聞いても、すごい恋愛遍歴ですね(笑)

まんしゅう で、3人目が当時の職場で出会った男性で、28歳のときに結婚しました。実は、前の年に妹が先に結婚したのが、けっこうプレッシャーだったんですよね。
埼玉ってなんだかんだ田舎だから、周りもそのくらいの年になるとみんなもう結婚してるんですよ。
父親もあからさまにお見合いの話を持ってきたり……。それで、焦って結婚したみたいなところもあるかもしれない。

――そんな焦りと閉塞感のなか、ちょうど30歳で投稿した作品が、ちばてつや賞に準入選するんですよね。

まんしゅう そう、実を言うと、それまで数ページ描いては「クソつまんねえ」と途中で投げ出してばっかりで、その作品を投稿するまで、一作描き上げられたことがなかったんですよ。
昔から、自分の中でハードルを高く設定しすぎるクセがあって。

――その頃から人一倍、自分に厳しかったんですね。

まんしゅう 小説や漫画の指南書に、よく「まずはとにかく一作最後まで仕上げてみること」って書いてあるじゃないですか。
今さらですけど、あれは本当に大事(笑)。描き上げてみるまで、自分が描きたいのが少女漫画なのか青年漫画なのか、自分の作風すらわかってなかったですから。

30歳を過ぎるといい感じに肩の力が抜ける

まんしゅうきつこ インタビュー SOLO 『明朗健全始末人』
(明智抄/朝日ソノラマ ソノラマコミック文庫

――ちなみに、小さい頃はどんな漫画が好きだったんですか?

まんしゅう 確か、初めて買った漫画は『Dr.スランプ』で、小学生の頃は『ときめきトゥナイト』が好きでした。
でも、なんといっても中学生でドハマリしたのが、明智抄先生の『明朗健全始末人』から始まる始末人シリーズ。これ、本当におもしろいから読んでみて! それと、高校生になって漫☆画太郎先生の『珍遊記』と出会った衝撃も忘れられないですね。
明智抄先生と漫☆画太郎先生が、今のわたしの核になってると言ってもいいです(笑)。

――その後、「30歳になったら終わり」という焦りからは抜け出せたんでしょうか。

まんしゅう うん、当たり前だけど、30歳になっても全然終わりじゃなかった。実際に30歳を過ぎてみたら、いい意味でのあきらめが湧いてくるんですよ。
今まで変に力んでた肩の力が抜けて、いい感じにうまく調和がとれるというか……いや、わかんない、すごい今あてずっぽうで、口からでまかせ言ってるけど(笑)。

――でも、気負ってた肩の力が抜けるというのは、なんとなくわかります。それからなんやかんや苦節10年。ようやく初単行本を刊行して、肩の荷が下りた感じはありますか?

まんしゅう 一時期は「わたし、このまま漫画家になれないかも…」と思ったら、大好きな漫画も読めなくなっちゃったことがあって。
あのままデビューできていなかったら、わたし、あきらめきれずにずーーっと引きずっていた気がするんです。40歳の遅咲きですけど、今回こうやって単行本を出せて、やっと成仏できた気がしますね。

――まあでも、デビューできたからこそ、そのプレッシャーからアル中になってしまうわけですけど、その話はまた次回ということで(笑)。

後編に続く

Text/福田フクスケ