2016.2.24

おひとりさま、日本最後の
清流の地・四万十へ(最終回)
-ついでにおひとりさまも卒業?

イケダハヤト氏との出会いをきっかけに高知へ移住したおひとりさまが“居場所”を見つけるまでの全4回の短期集中連載です。

ブロガー・イケダハヤト氏との出会いをきっかけに高知へ移住したフリーライターの小野好美さん。最終回では、ゆるいつながりが魅力の「沢田マンライフ」を経て、イケダ氏も提唱している「2段階移住」(いったん地方都市に住んでから、山や海などの自然に恵まれた移住先を探す方が失敗が少ないという説)を実行に移します。数々の決断の先に小野さんが見つけたものとは−−?

東京よりも高知の方が気の合う人とつながれて寂しくない

おひとりさま流「まだ東京で消耗してるの?」 小野好美

高知にえいやと移り住んだものの、「県外から来たばかり」、「高知には身内もいない」、「独り者」、「仕事はフリーランス」という悪条件てんこ盛りでなかなか家が借りられなかった私ですが、沢田マンションだけは違いました。

 “沢田マンション”に住みたいがために他県からやってくる人もいるため、大家さんにとって、他県出身者や独り者は慣れたもの。もう一つの懸念事項「フリーランス(=収入が不安定)」に関しても、「それなら家で仕事ができてえいね(いいね)」と大家のお母さんはニッコリ。思わずお母さんに抱きつきそうになる衝動を抑え、私は30号室の賃貸契約を結びました。

「沢マン」には、大家さん一家や住人同士のほどよくゆるいつながりがあり、たくさん食材をいただいた時には分け合ったり、時には誰かの部屋で自然と一緒にごはんを食べたり…。一人暮らしだと近隣とのつながりがほとんどない都会と、親戚のようにつながりの濃い田舎生活のちょうど中間という感じが、「ベタベタしたくないけど、完全に放っとかれるのはイヤ」という非常に面倒くさいメンタリティを持つ私にもすごーくちょうどいい空気感でした。

 都会から地方への単身移住について聞かれる質問ナンバーワンが「寂しくない?」というものですが、私の感触では、人口が多い東京よりもなぜか「沢マン」をはじめとした高知生活の方が、気の合う人とどんどんつながれて、寂しいと思う暇がなかったくらい。

 これは高知の人たちが皆ラテン気質で、フレンドリーだからでしょうか。もしくは人口が過密でない分、風通しがよくて、気の合う人にすぐアクセスできるから? それとも私の性格が高知にドハマリしているの? 曖昧な結論になりますが、自分をオープンにさえしておけば、ご縁ある場所では縁は広がり深まっていくもの。高知の人や自然に感化された私は、自ずと東京にいた時よりもオープンマインドだったのかも知れません。

生活コストの低い“地方” 「おひとりさま」ならどうにかなる

おひとりさま流「まだ東京で消耗してるの?」 小野好美

またよく聞かれる質問ナンバー2の「仕事はどうするの?」問題についても、(「あなたはフリーランスだからいけたんでしょ」という声もちらほら)乱暴な言い方になりますが、おひとりさまなら、どうにかなります。周りの移住者を見ると、「半農半X(エックス)」の人が多いかな、という印象。

 やりたかった農業を小さな規模でしながら、何かアルバイトをしたり、法人化しているような大きな農家を手伝ったり。「地方には仕事がない」という根強い呪縛がありますが、それは会社勤めをしたい人の話。飲食店、農業、農産物の加工・販売など、何らかの仕事はあるので、生活コストの低い地方ではそこまでがんばらなくとも、充分に生活していくことができます。

 もちろん自分でお店をやりたいとか、制作活動をしたいとか、そういう目的意識を持って移住してきて、実現している人も多々。イケハヤさんのブログでもよく論じられていますが、特に高知は元々企業が少なく、自営業が多い場所。商売を始めることのハードルが低いので、借金をせずに小さな規模でお試し的に商売を始めて、徐々に軌道に乗せていっている人が多いように思います。

 私が高知に来て感動し続けていることの一つが「自分で作って(やって)いいんだ!」ということ。都会では既に飽和しているインフラが地方では手薄。生まれた時から既存のシステムを充てがわれるのが当たり前だった東京生活に対し、地方ではイベントやお店や仕組みを、自分たちで作り出す余白があります。
この能動的な姿勢に慣れてしまうと、システムに合わせる受動的な生き方では幸せを感じられない身体に…。リスクもあるのである意味キケンですが、圧倒的におもしろいのは確か。音楽、アート、お店、イベント、服、野菜や米、加工食品、そして家。あらゆるものを自分たちの手で作ってしまう人びとに囲まれていると、どうしてこれを買わないといけないと思い込んでいたんだろう? と思うこともしばしば。その分、もしも何かを買うなら、今まで以上に厳選するようになったのも収穫と言えましょう。

 さて、快適で順調に見えた私の沢マンライフですが、やはり拭うことができなかったのが「自然が足りない」という思い。そして、男と別れて仕事もフリーになって、仕事もプライペートもおひとりさま、四面楚歌状態で移住した私でしたが、移住から丸1年を前にしてその状態に変化が。恥ずかしながら帰ってまいりました…ラブのある暮らしに。えぇ、そうなんです。ありがとうございます。

体の声を聞いて導き出した答えはおなかに…?

高知の海辺の町出身の彼が、その頃、仕事の関係で移り住んだのが四万十町は十和(とおわ)という地区でした。

 十和は高知県北西部に位置する山間の地域で、「道の駅」の成功モデルとして注目されている場所。移住者が多く、地域の人も移住者に対しとても柔軟です。どこを見ても山というこの地に何度か足を運ぶうち、私も彼と一緒にここに住むという話が持ち上がったのです。

 便利過ぎる沢田マンションから、「いちばん近いコンビニは隣の愛媛県」という山間の地に引っ越すには、またも激しい、葛藤がありました(激しすぎて体調を壊し、寝込む始末…!)。ですが、ここでも私の人生の根幹をなす「いくら考えても本当のところは分からない。やってみてダメだったらそこで考えよう」精神で思考を放棄。
最終的にはまたしてもえいや、と勢いのみで引越しを敢行。沢田マンションのお母さんなどは、東京から来た私が田舎に引っ越すということで本当に心配してくれて、「何かあったらいつでも戻っておいで」と言ってくれました。入居のときはガマンした衝動を今回ばかりは抑えきれず、お母さんとがっしりハグを交わして私は四万十町にやってきました。

 そして現在。窓の外は一面の緑。聞こえてくるのは鳥の声。そしてそして、私のおなかには…

 猫が乗っていますね。3匹。すみません。重いので降りていただいてよろしいですか。かように彼と猫3匹との楽しい共同生活@四万十がスタートしました。ついに5年来、体の奥底で鳴りつづけていた「自然が足りない」という声に、「四万十移住」というアンサーを返したのです!

四万十で“プラダの財布”は必要か?

おひとりさま流「まだ東京で消耗してるの?」 小野好美

現在、東京で借りたら家賃6ケタの1戸建てを、4ケタ(!)で借りており、食材もよくいただくのでお金を使う機会はさらに激減。お金のために、と仕事をムリに抱え込む必要がなくなるので、余裕を持って仕事ができています。

 東京、そして高知市と比べて生活はさらにシンプルになりました。遊び方は料理とお酒を持ち寄って、誰かの家でパーティーするとか、気になる映画があったら上映会を自分たちで企画するとか、皆で餅つきや味噌作りをしてみるとか、そういう毎日で、意外と忙しいのです(笑)。

 パーティーの場にミュージシャンがいれば歌い、ダンサーがいれば踊り(四万十にはなぜかアーティストが多い)、料理も「玄人はだし」の人が多いので(田舎では美味しいお店ができるのを待っていても仕方がないので、自分たちで作るという姿勢のなせる技!)、気づけば四国の山奥にいるとは思えないクオリティの高い料理に囲まれていたり。
ジビエもここでは当たり前。また、ときどきは街に行き、カフェやTSUTAYAでここぞとばかりに文化の香りを吸い込みます(笑)。暖かくなったらキャンプやカヌーに釣り、とアウトドア遊びが日常になることでしょう。

「おひとりさま」のフットワークが軽さは武器になる

そんな風にお金を使う機会が減って思うのは…なんというか、無人島に行く時にお気に入りのブランドのワンピースを着ていく人ってあまりいないですよね。もっと破れてもいいようなジーンズとか、履いて行きませんか?
何が言いたいかというと、いかに私たちは人の目のための消費をしているかということ。私もフリーになった時に、自分に気合を入れようとプラダの財布など買ってみたのです。あくまで自分のためだと思っていましたが、でも、もしも自分以外誰もプラダを知らない国にいたら、その財布を買ったかどうか自信がありません。

 やっぱり周りからの「いいね」を欲しい気持ちがなかったと言ったらウソになる。他人からの称賛や羨望が欲しいという自分の気持ちも見つめたうえで、ファッションという遊びに昇華できていたら健全です。でも、自分を省みるとまったく自覚的じゃなくて、いつの間にか「これぐらいは持っていないと」という無意識の思い込みに振り回されていたな、と思うのです。借りていた部屋も、買っていた服や小物も。

 地方のいいところは、東京とくらべて圧倒的に「人の目」が少ないところ。人目を気にせず「自分の心身が心地よいかどうか」という一点のみにおいてすべてを選択できることが、どれほど幸福なことか−−。

 おひとりさま、東京から高知市を経て、四万十へ。また何か新しくておもしろそうな流れが来たら、乗るとは思いますが、とても心満たされる居場所を見つけました。

 もしもあなたが東京的な生活に疲れているなら。地方移住という手もありますよ。「おひとりさま」でも、いけました。おひとりさまであることは、フットワークが軽いという武器になります。私は前の恋人と別れてから「新しいパートナーができたら移住しよう」と思っていました。でも友だちに「彼氏が東京での仕事を手放せなかったら、移住できなくなるのでは?」と言われて至極納得。
それに、先に一人で移住を果たして、のびのび暮らしていた方がパートナーもできやすいのかもしれません。極端な例かもしれませんが、高知に単身移住して1年を待たずに恋人ができて結婚、もうすぐママという友だちも。

 周囲のムードに流されず、「自分の心身が心地よいかどうか」をニュートラルに感じられる健やかさが、皆さまにも私にも、いつも共にありますように。読んでくださってありがとうございました! 今度は「田舎で消耗してるの?」にならないためのtipsとか、いろいろ書き足りませんが、すでに文字量を相当オーバーしているのでひとまずここで。またどこかで!

Text/ 小野好美