2016.11.29

さみしさは“人とのつながり”では満たされない/月読寺・小池龍之介さん(前編)

「さみしい」という気持ちって、いったいどこから湧いてくるのでしょう?
多くの著作で有名な、月読寺住職・小池龍之介さんにお話を伺いました。

無理して恋愛や結婚をしなくてもいい。頭ではそう思っていても、どうしようもなく襲いかかる“さみしい”という感情。
ときに家族との関係や友達付き合いまでも面倒なものにしてしまう“さみしさ”の正体はどんなもので、その対処法はあるのでしょうか?
『考えない練習』『超訳 ブッダの言葉』など数々の著書や、新聞の人生相談でも活躍されている、月読寺住職・小池龍之介さんにお話を伺いました。

人の心はさみしさを
“自転車操業”のように埋めている

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――「一人でいるとさみしい」とか、「誰かとつながりたい」といった気持ちは、私たちの心のどういった仕組みで発生するのでしょうか?

 足りていないから、なんとか足りるようにしたいと思い悩む欠乏感や欠落感のことを、すべてまとめて“さみしさ”と私は定義しています。

 本来、さみしさって人間関係とはまったく関係なく生じるものなんです。
いつも楽しめているものが楽しめないとか、あってほしいと思っているものがないとか、そういうことだけでも“さみしい”という気持ちは生じますからね。

――たしかに、さみしさの原因は人間関係だけとは限りませんね。

 ですから、“人とつながる”こと以外でも、さみしさを満たすことは可能です。たとえば、何か足りないという渇望感を抱いたとき、食欲に走る人は多いですよね。性欲もそう。セックスの快楽も一時的には満たしてくれます。

 このように、さみしさの代替行為は実はたくさんあるのです。しかし、私たちはそれらよりも、人とつながることで他人から受け入れられたり、重要な存在として扱われたりするほうが、よりレベルの高い永続的な満足が得られると思いがちです。

――俗に“人のぬくもり”と言われるものですね。

 そのため、“さみしさ”は人間関係において足りてない状態を指すことが多いんです。だから、多くの人は誰かと会ったり、電話したり、メールしたり、SNSに投稿したり、そういった“人とつながる”ことでさみしさを解消しようとします。
でも、人間関係によって得られる満足も、食欲や性欲と同じで、すぐに消えてしまう一時的・刹那的なものにすぎないんです。

 人から愛情や承認を受け取ると、脳内ではドーパミンが分泌されるので、一瞬は満たされます。
ただその快感は長持ちせず、すぐに色あせてしまうので、また満たし直さなければいけないという、すごくあやうい零細企業の経営のように“自転車操業”で回っているんです。

満たされると感じるほど、
余計にさみしくなってしまう

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――自転車操業を続けてしまった場合どうなってしまうのでしょう?

 快感が切れてしまったあとは、「もっと愛されたい」「もっと受け入れられたい」という、禁断症状が出てきます。

 そうやって、刺激(愛情・承認)→快感(満たされた気持ち)→渇望感(やっぱりさみしい)というパターンを繰り返すうちに、脳に耐性がついてしまう。すると、前よりも強い刺激でないと満たされなくなり、より強いさみしさが引き起こされ、結果、常に人とつながっていないと不安になってしまう、というわけです。
人の心は、満たされれば満たされるほど、余計にさみしくなるようにできているんですよ。

――なんとも皮肉なものですね……。
では、自分の親や家族、恋人のように、より強い愛情や承認を得られるような相手には、より強いさみしさを感じてしまう、ということですか?

 その通りだと思います。私たちは、とりわけ家族やパートナーに対して、過剰な期待を抱きがちです。そして、それが叶わないと他の人よりも強い怒りや、憎しみを抱くので、よりさみしくなります。

 特に恋愛は、「愛されたい」「求められたい」という渇望感を強烈に満たしてくれますからね。すると、脳はもっと強い快感を欲しがって、その反動で、より強い「さみしい」「満たされない」という不安を引き起こそうとする。だから人は、恋愛すると不安になりたがるんです。

――特別な期待や要求をしてしまうからこそ、相手にネガティブな感情を抱いてしまいやすいんですね。

 私たちは、目の前の相手の言動が原因で怒ったり不安を感じたりしているように錯覚していますが、本当はもともと自分の中に怒りや不安といった“感情のエネルギー”があって、たまたま目の前にいる人をそのターゲットにしているだけなんです。
人は自分の世界の中に閉じこもっていて、そもそもすごく孤独なんですよ。

 相手が自分を愛してくれないから、腹を立てたりさみしくなったりしているのではなくて、私たちはそもそもさみしくて、それを満たしてくれるはずだと思い込んでいる相手が満たしてくれないことに勝手に腹を立てている。因果関係が逆なんです。

「自分がさみしいから、相手に腹を立ててしまうんだ」と理解していれば、むやみにイライラしたり不安になったりしても無意味だと気付くはずですよ。それを自覚できている人はほとんどいませんが…。

結婚でさみしさは解消されない

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――家族やパートナーに対して、なぜ過剰な期待や要求をしてしまうのでしょうか?

 そこに、“特別な絆”や“無償の愛情”があると信じているからでしょうね。
しかし、残念ながら人間関係というのは、多かれ少なかれ「自分がしてあげたから、相手も返してくれる」という交換関係なんです。打算や利害関係が一切なくて、無条件に自我を肯定してもらえる人間関係なんてありません。それは家族やパートナーであっても同じです。

 でも多くの人は、自分が何もしなくても特別扱いしてくれる相手、というのを求めてしまうんですね。

――親子やカップルの間には、“特別な絆”や“無償の愛情”が成立しているように見えますが…。

 それは、“幸せホルモン”や“愛情ホルモン”と呼ばれるオキシトシンが分泌されるからでしょう。このオキシトシンの分泌によって、相手に対する献身的な愛情が無条件に湧いてきて、相手の欠点が見えなくなります。ところが、やっかいなことに、このオキシトシンの分泌は、長い人でも3年で終わってしまうそうなんです。
“無償の愛”は、刺激が新鮮な間だけ生じる、およそ3年間の幻想なんです。

――それが幻想なら、多くの人は恋愛や結婚なんてしなくなってしまうのでは?

 結婚生活は、“特別”だった3年間が終わった後のほうが遥かに長いから、特別な関係なんて幻想だとわかっていて、相手に過剰な期待や要求を抱かない人のほうが、かえって安定したパートナーシップを築けるんですよ。

 ところが、得てして「結婚したい」と強く望んでいる人ほど、特別扱いしてくれる相手と結婚すれば一生さみしさから解放されると思っています。だから、3年経ってオキシトシンが切れたとき、さみしさを満たしてくれない相手に失望や怒りを抱くようになってしまう恐れがあります。

――さみしさを動機に結婚するのは、よくないですね…。

 結婚でさみしさを解消しようとする人は、その期待が大きすぎるので、満たされずにますますさみしさが増幅してしまう。逆に、結婚に過剰な期待をしていない人は、さみしさを解消したいと思っていないからこそ、結果的にさみしさから解放されることができるんです。

 どんな人間関係であっても、一度得られた安心感や充足感が永続するということは絶対にありません。どんな感覚や刺激も、脳の神経に一定の影響を与えたら、やがて必ず薄れて消えていくからです。

 でも、消えていくからこそ、また次の感覚や刺激を受け取ることができる。もしも安心感が薄れなかったら、脳がそれ以外考えられなくなり、他に何もできない病気のような状態になってしまいますからね。

――どんな感情も長続きしないのは、脳に必要な機能なんですね。

 永続するものなんてどこにもないのですが、だからこそ人はいろんなことに意識を向けて、絶えず変わっていくことができる。それを“諸行無常”と言うんですよ。

(後編に続く)


Text/福田フクスケ

■プロフィール
小池龍之介(こいけ・りゅうのすけ)
1978年生まれ、山口県出身。東京大学教養学部卒。2003年、ウェブサイト「家出空間」を立ち上げる。同年、寺院とカフェの機能を兼ね備えた「iede cafe」を展開(〜2007年まで)。現在は、鎌倉にある月読寺の住職として、宗派仏教を超えた立場で自身の修行と一般向けの座禅・瞑想指導を続けている。『考えない練習』(小学館文庫)、『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『しない生活 煩悩を静める108のお稽古』(幻冬舎新書)など著書多数。
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