2016.12.13

閉じこもってた3年…認められると人ってこんなに変われるんだ!/『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』作者・永田カビさん

自己否定のループにあった永田さんが、漫画での成功をきっかけに変わったこととは? 寂しさの先にあった、今のお気持ちを伺いました。

大学中退後、所属コミュニティがなくなった不安から鬱による自傷行為を繰り返し、摂食障害も患った永田カビさん。
満たされない寂しさから、人肌を求めてレズビアン風俗に足を運ぶことになるまでの心情を描いた自叙伝的漫画『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』がネットで話題となり書籍化。
誰の心にもある寂しさや、承認欲求との向き合い方が共感を呼び、あれよあれよと重版がかかる大ヒットとなりました。

 自己否定のループにあった永田さんが、漫画での成功をきっかけに変わったこととは? 寂しさの先にあった、今のお気持ちを伺いました。

「若い芽を摘みたい…」ライバルに負けたくない覚悟

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――本作は、寂しいという感情に支配されつつも、ご自身のことを俯瞰して冷静に描かれていますね。

 どういう作品ならお金を払ってもらえるだろうと考えた結果、人に言えないような恥ずかしいことを描くしかないと思ったんです。自分が抱えていた感情を「うぉ~早く伝えたい!」「早く読んでほしい!」という衝動で、一気に描き上げました。
多くの人に読んでいただき、お仕事に繋がったので、見つけてもらえてすごくありがたかったです。

――心が弱っているときに自己分析をするのって、とてもしんどい作業だと思うのですが…。

 今までは別名義でフィクションを描いていたんですが、上手くいかない苦しさに苛まれていて。バイトも続かないし、どうやって生きていこう? と思ったら、やっぱり頑張れるのは漫画しかないなってことに気づいて。追い詰められて描いていましたね。元々、他の人の漫画もあまり読まなかったんです。

――自分の作品と比べてしまうのでしょうか。

 そうですね。若い漫画家志望の人が周りにいたら、できれば私が若い芽を摘みたいくらいなんです(笑)。アドバイスとか求められても、あんまりしたくないですし。もし今後、母校に登壇とかする機会があっても、培ったノウハウを明かしたくないので、当たり障りのない話しかできないと思います(笑)。

――漫画では絶対に負けたくない、という絶大な意思を感じました。

 漫画がダメになったら、何もやっていけないので。背水の陣なんです。漫画が上手い人を見ると、「ううううう〜 やめてえええ〜」ってなるんです(笑)。
今はネットで話題になると、すぐ書籍化する流れができてるじゃないですか。私の仕事が増えるという希望より、「私を脅かす新しいライバルがどんどん出てくるぞ」という、不安な気持ちのほうが強いですね。

ネットの否定的な意見に安心?


――永田さんも、今作が話題になったきっかけはpixiv(作品の投稿・閲覧が楽しめる「イラストコミュニケーションサービス」)でしたね。ネットは、拡散されるけど炎上のリスクもあります。ご自身を題材にしているだけに、恐怖はなかったですか?

 今まで持ち込みしたり賞に応募してきたけれど、ずっと上手くいかなくてもどかしい思いをしていたんです。だったら直接読者に届く、ネットにアップするしかないと思って。載せてみたらどんどん拡がりました。

――自己否定で塞ぎ込んでいたところに、他者からのポジティブな評価がいきなり押し寄せてきたと思うのですが…。

 最初は良い意見ばかりで、意外だったんです。でも一気に拡がったら、段々と否定的な意見も出てくるようになって、やっと「漫画が幅広く届いたんだ!」って思えましたね。好意的な意見だけだと、一部の人にしか見られていないんじゃないか心配だったので、一時期は悪い意見をわざわざ検索していました。

――漫画のことになると、ポジティブになれるんですね。

 認められる速度が急すぎて(笑)、全部は消化しきれていないと思うんですけどね。
ただ、今はさすがに疲れたので、あまり検索しないようにしています。

意外と一人でやれる、信頼されてる?と思った一人暮らし

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――作品の中では、ご両親からの愛に飢える様子も描かれていますね。いわゆる「毒親」ではなくて、永田さんも、お母さんのことが大好き。でも、一緒にいるのが苦しいという。

 「毒親に悩む人にオススメ」というレビューがあったりするんですが、そのつもりで描いたわけではないんです。作中では「毒親」という言葉は使っていないし、母は世間でいう「毒親あるある」にも当てはまらないんです。
母は連載(『一人交換日記』(ヒバナ/小学館))も読んでくれていて、「私はあんなのじゃない」って直接クレームも来るんですけど(笑)、あくまで私の主観で描いていて、当時はお母さんが怖く見えたんだよって。ただ、それだけですね。

――作中で描かれているご両親は、攻撃的になるわけでもないですし、永田さんを全否定する感じでもないですよね。でも、一緒にいると何か休まらない部分があると。

 実家にいる時は、自分の部屋が超汚かったんです。それは、「母が見たら悲しむものを自分の部屋に隠しておく」という意味があったんです。それなのに、母はドカドカ遠慮なく入ってくるので「わざわざ見に来てどうするの!」って思ってました(笑)。

 一人暮らししてからは、母が来る前に、念入りに片付けるようにしています。「粗相がないうちに帰って欲しい」と思うくらいに気を遣うし、緊張するんですよね。母が帰ったあと、どっと疲れちゃうのは、いいように見せたいっていう表れかもしれません。

―― 一人暮らしをして、ご両親への気持ちや関係は変わりましたか?

 実家から近いところに引っ越したんですけど、想定していたよりも、両親からの連絡があんまり来なかったんです。「連絡がないってことは、意外と私は親に信用されているのかな」と思えて嬉しかったですね。家事も「自分はできない」と思い込んでいたけれど、やってみるとちゃんと出来たんです。

人から肯定してもらえることで、こんなに変われる


――漫画の反応や、親元を離れての一人暮らしで自信がついたんですね。状況が大きく好転してから、永田さん自身にとって一番の変化は何でしたか?

 認めてもらえたことで、自分も着実に変わってきたと思います。まずは、人と会えるようになりましたね。今までは「私なんかに会っても楽しい時間が過ごせる訳がないから、相手の時間がもったいない。申し訳ない」という気持ちでした。3年くらい、ずっと人と会っていなかったんですけど、こちらから人を誘えるようになったのが一番大きな変化です。距離感が近い人に対しても、「そんなに受け入れてくれるの?…じゃあ(笑)」っていけるようにもなりました。

 今は無理のない範囲で、できるだけ人と会うようにしています。その代わり、「今日は無理」というのがわかったら、なるべく早く連絡するようにしてます。
昔はバイト先にも友達にも、ドタキャンばかりしてしまっていたんです。直前で苦し紛れに嘘をついてしまったり。今は、そういうことはしなくなりましたね。自信がついてきたからこそ、気が乗らない約束も断れるようになりました。今までは上手くいかなかったフラストレーションがあったけど、認められたことで、変な遠慮がなくなったのかもしれません。

――お写真は出せないのですが、今日の永田さんは口角がキュッと上がっていて、柔らかな笑顔が印象的です。お仕事が上手くいってから、お顔つきも変わったのでしょうか。

 昔からずっと暗いし、猫背だし、アルバイトの面接も落ちまくるし、初対面なのにいきなり「表情が暗い」って言われるくらいでした(笑)。人と会えるようになったのもそうだし、自分の身なりを整えることもそうなんですけど、「人から肯定してもらえることで、こんなに変われるんだ!」と、自分でも驚きですね。

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 自身の内面や葛藤を漫画にさらけ出すことで、世界がどんどん広がっていった永田さん。人から認めてもらえたことで、意識が外に向き、自分が心地良いと思うことを素直にできるようになったというお話が印象的でした。
ただ寂しさをごまかすのではなく、そう感じる原因を分析して向き合うことで、解決の突破口になるということを、心に留めたいと思います。

Text/小沢あや

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