2017.9.30

すぐアウトプット、すぐ評価されたい。
現代人の「思いついたらすぐ言っちゃう病」

つぶやけばすぐ反応が返ってくる現代だからこそ、
一人で温め続ける思いがあれば尊い。

褒められたら嬉しい。でも必ずしも評価される訳じゃない

何かを待つようにして頬杖をつきひとり考える女性の横顔の画像 by Kyle Broad

突然なんだという話ですが、人に褒められると嬉しいですか? もちろん嬉しいですよね。私もすごく嬉しいです。程度の差こそあるものの、人に褒められて嬉しくない人はなかなかいないと思います。

 人間が仕事をする主な理由は生活費を稼ぐためだけれど、社会やまわりの人と関わる中で承認を得たいからというのもある。一生働かなくてもいいほどの大金を手に入れたとしても、2~3年ふらふら遊んだらだんだん飽きて退屈になってきて、猛烈に何かがやりたくなったりするんだと思います。

 褒められたら嬉しいし、やる気も出る。それは誰だってそうだし、悪いことではないです。でも、自分の行いが常に他人に評価されるかといったら、残念ながらそうとは限りません。評価してほしいところで評価してもらえなかったり、逆に「え、そこ?」という部分で褒めてもらったり。
他人のことは自分でコントロールできないから、「他の人からの承認」に自分のモチベーションをすべて依存してしまうと、浮き沈みが激しくて情緒不安定になってしまいます。

現代に生きる私たちの「思いついたことすぐ言っちゃう病」

先日、クリストファー・ノーラン監督の新作『ダンケルク』を映画館で観てきたんです。第二次世界大戦中のダンケルク海岸における、英仏連合軍の撤退作戦を描いた作品です。

 いろいろなインタビューによると、『ダンケルク』の構想のきっかけとなった体験は25年も前。友人と、小さな船に乗ってドーバー海峡を19時間かけて渡ったそうなんですが、その体験がものすごくキツくて印象に残っていたらしい。
いつか映画にしたいとは思っていたものの、25年前のその時点では、自分の映画監督としての技術に自信がなかった。だから、今回になってやっとそれが実現したわけですが、25年もの間、ノーラン監督は他の作品を製作しつつ、構想を温め続けてきたということですね。

 ノーラン監督は、ゴシップや興味のないニュースに時間を奪われるのが嫌なので、スマホをあまり使わないんだそうです。ということはおそらく、SNSも積極的には見ていないのでしょう。

 でも、もしノーラン監督がドーバー海峡を渡ったのが今で、しかも彼がTwitterをやっていたら……「ドーバー海峡めっちゃ荒れててワロタ」「まじでキツい」「最高にキツいので映画化しようと思う」とか、すぐ言っちゃうと思うんですよね。そして、それがたくさん「いいね!」されるなりリツイートされるなりして、すぐに実現しちゃう。もしくは、あまり反応がなくて、「あ……もしかして、ドーバー海峡がキツい話、つまんない?」と思って、その時点で諦めちゃう。これって、どちらもすごくもったいないと思うんです。

 前者のように、話が早くていいという考えもあるかもしれない。だけど、「自分の中で期が熟すのを待つ」「技術がそこまで到達するのを待つ」ということを、現代の私たちはなかなかできなくなっていると感じるんです。「思いついたことすぐ言っちゃう病」です。すぐにアウトプットしたい、すぐに評価されたい。そしてそれこそが最善であるという風潮ができています。

 だけど、出来上がった『ダンケルク』を観ると、ノーラン監督があまりスマホを使わない人で良かった、25年前にTwitterがなくてよかったと、きっと多くの人が思うはず。
『ダンケルク』は、ノーラン監督が今の技術で、今のタイミングで製作したからこその作品であると、私は思ったんです。

たった一人で「温め続ける」思いがあってもいい

まわりの人から褒められたい、承認されたいという思いは誰もが持っているし、もちろんノーラン監督だって例外ではないでしょう。映画がヒットしたら嬉しいし、興行成績が振るわなかったら落ち込むと思います。

 人間が社会的動物である以上、モチベーションを完全に自活するのは難しいけれど、他者からの承認にモチベーションを依存するのは、簡単な代わりにとても不安定です。せっかくのアイディアを失ってしまう危険だってある。

「まだ誰にも言ってないんだけど、私はこれをすごく面白いと思ってる!」という事柄を、1つや2つ抱えていてもいい。期が熟すのを一人で静かに待っていてもいい。なかなか出来なくなっているからこそ、一人で「温め続ける」ことはとても尊いのではないかと、『ダンケルク』を観て思いました。

 そんな「ドーバー海峡がキツい話」、もとい英仏連合軍の撤退作戦を描いた本作、ぜひ観に行ってみてください。IMAXは迫力満点だけど、酔います(私だけ……?)。


Text/チェコ好き

前回記事<「孤独死」ってそんなに怖い?私はむしろ理想の最期です>もチェック!
孤独死って、考えようによっては案外悪くないものかもしれません。