2018.3.16

今はない純喫茶に思いを馳せる…
訪れることができるチャンスを大切に

出会えた純喫茶の灯りはすでに…。
かつての時間を空想して思うことは。

空想は儚くロマンチックでも、
灯りの点る店たちに思いを

滋賀県の八幡堀 八幡堀

先日、滋賀県の近江八幡駅に用事があったので、少し寄り道をして彦根駅周辺を散策してきました。
大阪や京都へは、日々の通勤と同じくらい軽やかな気持ちで頻繁に出掛けておりますが、滋賀県の街をゆっくり歩くのは意外にも初めてのことでした。

 ありがたいことに良く晴れた、ある土曜日の午後。彦根駅では馴染みのあるキャラクター「ひこにゃん」が出迎えてくれました。
ふらりと訪れた街では地図を見て歩くことはほとんどなく、戻ってくる時間だけをおおまかに決めて、気の向くままに歩くことが多いです。目当ての純喫茶がある時は、そちらをまっすぐ目指すのも良いのですが、思いがけない道で忘れられない風景を見つけたり、ふと入った店で印象深い出会いがあることが多かったため、そう心掛けています。

飛び出し坊や 飛び出し坊や

今回の散策でも歩いている途中にいくつかの純喫茶と出会いました。…しかし、その中の半分はすでに閉店していたのです。そんな時はいつも、灯りが点いている間に訪れることができなかったことをさみしく思い、しばし外観をぼんやりと眺めてしまいます。

 かつては、とにかく多くの純喫茶を訪れたくて、どんなに遠い土地の店でもその歴史を閉じると聞けば、可能な限り駆けつけたりもしていたのですが、ここ数年は色々な気持ちの変化もあり、そのようなことはしなくなりました。
営業している間に一度でも自分の体験としておきたい気持ちもあるのですが、時間的に許されなかったり、予定がつかなかったりすることも多くありました。それからは考え過ぎてもやもやしてしまうよりも、その店を愛していた近隣の人たちが思う存分最後の時間を過ごし、ふっとその灯りが消える瞬間を想像して“その日”を見守ることにしています。

運良く訪れることができた
「帆船」「ベニヤ」でのひととき

とはいえ、入店できなかった純喫茶に対して、心の中ではあきらめの悪い部分も。

 今回の彦根散策では、趣のあるビルの中で栄えていたであろう「COFFEE & MUSIC チャップリン」や、一文字ずつ立体的に作られた店名のオブジェが素敵だった「らんぶる」、ガラスケースの中で色褪せたメニューサンプルが目を瞑って休んでいるように見えた「洋酒喫茶 山」など…。

「COFFEE & MUSIC チャップリン」 「COFFEE & MUSIC チャップリン」

たくさんの人たちが賑やかに集っていた頃は、いったいどんな表情を見せたのだろう…と妄想は膨らむばかりです。

「らんぶる」「洋酒喫茶 山」 「らんぶる」(上)/「洋酒喫茶 山」(下)

しかし、運良く訪れることができた2軒の純喫茶たちもそれぞれ素晴らしかったのでした。

 ひこね丼(近江牛のスジを名物の赤こんにゃくや玉ねぎと一緒に柔らかく煮込んだもの。爽やかな大葉がアクセントで、ママからは「七味をかけると更に美味しいよ」と薦められたもの)に舌鼓をうった「帆船」では、窓際の棚に並べられた漫画たちをいつまでも読んでいたかったですし、

「帆船」 「帆船」

外の世界から遮断されたように静かで、大きな植木鉢の仕切りがまるで森の中にいるような「ベニヤ」では、真っ赤なビロードのソファに沈み込んでそのまま溶けてしまいそうなリラックスした気持ちで過ごすことができました。

「ベニヤ」 「ベニヤ」

無くなってしまったものに思いを寄せるのは切なくも楽しいことですが、営業して下さっている店に対し、これまで以上にたくさんの敬意を払い、気になる店を見つけたら迷うことなく扉を開け、そこでの数十分を自分の人生に刻んでいきたいと思ったのでした。

Text/難波里奈

前回記事<生涯忘れられない特別な純喫茶「エイト」>もチェック!
どの純喫茶も大好きですが、とあることがきっかけで、新中野にある「エイト」は特別な存在になりました。


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