2018.3.30

ついにその歴史に幕を閉じる。
3/31に閉店する純喫茶「伽羅」の
マダムの想い

はじめての書籍で紹介した思い出の場所。
閉店が決まった押上の純喫茶「伽羅」で、
マダムの思いに涙がこぼれます。

はじめての書籍で紹介した思い出の純喫茶

つぼみだった桜がいつの間にか満開を迎えて、花が散っていくのを見ては、まだ少し遠くの夏を想うこの頃です。

 皆さまはお花見などされましたか? 私は大切な友人たちと早朝に眺めた桜と、純喫茶へ寄った帰り道に見上げたライトアップされた夜桜が、今年の思い出となりそうです。

 さて、咲いたと思ったらすぐに散ってしまう花のように、人生というものも振り返ってみるとあっという間なのかもしれません。

 押上にある「伽羅」という純喫茶は、私にとって初めての著書『純喫茶コレクション』で紹介させて頂いた思い出深い店です。

押上の純喫茶「伽羅」の外からの様子

書体の素敵な看板、入口前の季節を感じさせてくれるプランター、扉を開けると真っ先に飛び込んでくる大きな水槽の中で泳ぎ回る熱帯魚、少しカーブした窓際の席、ずらりと並んだサイフォンたち、ずっと眺めていられそうな壁紙、そして笑顔が素敵で美しいマダム…。

押上の純喫茶「伽羅」の内装

自分の行動範囲とは反対方面のため、数回しか訪れることが出来なかったにも関わらず、記憶に鮮明な空間でした。

 そんな「伽羅」が、店の前の道路拡張を理由に3/31でその歴史に幕を閉じることとなりました。

 せめて書籍でお世話になったご挨拶だけでも、と勤務終わりの夕方、急いで押上まで。

「私の分身みたいなものだったの」

スカイツリーを振り返る暇もないほど店の前まで急ぐと、灯りが点いていて店内には変わらず美しいマダムが。看板は仕舞われていたのでノックをしてから扉を開けると、笑顔で迎え入れて下さいました。

押上の純喫茶「伽羅」の看板

少しの雑談の後、閉店について切り出してみたところ、思わず涙がこぼれてしまうような言葉がマダムからいくつも。

「こんな形で店を閉じるとは思っていなかったから、気が抜けてしまったわ。
ここはね、単に空間というよりも私の分身みたいなものだったの。大切だから床や壁に汚れを見つけるとすぐに綺麗にしてね。
開店してから今日まで、店に立つのが嫌だと思ったことが一度もなかったの。向いていたのかしらね。幸せなことよね。
私、店に立つ時は必ず大好きなタイトロングスカートで、近くの知り合いの店で仕立ててもらっていたのだけど、閉めることが決まってからは履く気になれなくて」


 寂しそうに笑うマダムは桜色のセーターと黒地に白い水玉のパンツをお召しになっていて、そちらもとても似合っていたのですが、その言葉からはご自分の気持ちをどうにか整理しようとしている気丈なところが見え隠れして切なくなります。

「閉めるってなってから、何十年も使えていた製氷機も壊れちゃってね。ああ、分かるのかなあと思ったわ」とまた胸が苦しくなるようなエピソードを。

押上の純喫茶「伽羅」のアイスコーヒー

少しの滞在のつもりでしたが、「でもこうやってね、たくさんの人たちが遠くからも来て下さって、嬉しい言葉を掛けてくれるから。誰かと話していると気持ちも上がるからありがたいの」と背筋を伸ばし、凛とした表情で語るマダムの美しい横顔に、長い間見惚れていたのです。

押上の純喫茶「伽羅」の内装2枚目

営業は明後日、31日の土曜日まで。気になった方はこの機会に足を運んでみるのはいかがでしょうか?
この春一番と言えるほど切なくも、素敵な時間を過ごすことができると思います。


Text/難波里奈

前回記事<今はない純喫茶に思いを馳せる…訪れることができるチャンスを大切に>もチェック!
出会えた純喫茶の灯りはすでに…。 かつての時間を空想して思うことは。


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